2010.06.01
電子レンジが来た
昭和44年 新しいもの好きの祖母が 電子レンジを買ってきた。
まるで自分の発明のように コーヒーカップに入れた牛乳が カップは熱くならないで牛乳だけ温まるんだ こんなことも、あんなこともできると魔法のようなありさまを大得意になって話しました。さらに 金色のふちのついたカップはだめ金属だから とも言ったかもしれません 祖父は電子レンジのなかに電磁波がいっぱいあるから 扉を開けたら1・2・3と三つ数えてからから手をいれろ などといい 便利な物は危険なんだということを強調。とにかく「がっちゃん」という音を立てる重たい扉で、今よりずっと どっしりとして大きかったように思います。
小学校に入っても泣いてばかりいた私は 運動が大大大きらい 。走ったら 絶対に びりけつ、まして運動会など その日が消えてなくなればいいと 思っていました。
運動会当日の朝 体操着が 半乾きでした。もちろん一枚しかありません。
何にもなくても泣きそうな私が 運動会の重圧も加わり あと一歩のところで我慢している朝で、あわてた母はいきなり その魔法の電子レンジに 半乾きの体操着を入れてスイッチを押しました。一瞬私は お母さん すごいアイディアだ、と すくわれた気がしたのです。
ごおーん ごおーん 何回か音を立てて回った後 ばりばりばり ものすごい音がして母はあわてて 止めました。
あわれ体操着 胸のファスナーのあたりから まっ黒に焦げて大きく穴が開いています。叫ぶように泣きました。この世のことはみんないやだもういやだ というような大泣きです。
母は近所の洋品店へ走りました。 頼んで店を開けてもらい 体操着を買ってきました。
新しい体操着を着てなんとか学校へ行きましたが 運動会の写真は どれを見ても、いまに泣くぞ という顔です。
今は「チンとしてください」とお客様にお話して店の商品をご案内しています レンジ加熱OKということがすぐに解ります。
ガス台より使う回数が多くなりましたね。